そしてデート当日……
アキ(さて、待ち合わせの時計台の前に来たけど……)
アキ「いくらなんでも来るのが早過ぎたわ。集合時間は10時なのに……」
現在の時刻『AM7:55』
アキ(二時間以上も前に来てしまうなんて……さすがに遊星はまだ来てないわよね)キョロキョロ
アキ(でもしょうがないじゃない、楽しみだったんだから。というか楽しみ過ぎて昨日はなかなか眠れなかったわ)スイミンブソックス
アキ(だけど……主役のお弁当は今までで一番良いのが出来た気がするわね)
アキ「遊星の好きな肉団子もたくさん入ってるし……今度こそこれを食べた遊星の笑顔が見られたら良いな」
『AM8:55』
アキ(まだ後1時間ちょっとか……やっぱり早過ぎたわね)
アキ(でも誰かを待つのって意外と悪くない……ん?)
ポタッ……ポタッ……
アキ「……雨?」
アキ(小雨だけど……おかしいわね、天気予報のお姉さんは今日一日晴れだって言ってたのに)
アキ(これぐらいの雨ならすぐに止むわよね? だけど何だか向こうの空の具合が徐に悪くなって来たような……)
アキ「…………」
アキ「だ、大丈夫よ。遊星が来るまでに止んでいれば良いんだから」
アキ「私は天気予報のお姉さんを信じるわ。とりあえず小雨が止むまでそこのコンビニに避難してましょう」
『AM9:10』
ザアアアアァァ……
アキ「…………」
アキ「何よ、土砂降りじゃない……今日は晴れのはずじゃなかったの?」
アキ(全然止む気配もない。これじゃあ……)
<レディトゥゴーギンガノハテマデオイカケテユクー
アキ(遊星から電話?)
アキ「もしもし、遊星?」
遊星『アキ、外は見たか?』
アキ「うん、凄い雨ね」
遊星『天気予報では一日晴れと言っていたんだが……仕方がないな』
遊星『止みそうもないし、残念だが今日は中止にしよう』
アキ「…………」
アキ「……そうね」
遊星『すまない。俺から誘ったのにこんな事になって』
アキ「良いのよ。遊星が悪い訳じゃないんだから」
遊星『……もしかしてもう家を出ているのか?』
アキ「ううん。ちょうどこれから出ようとしてたところだったの。
良いタイミングに電話をくれて助かったわ」
遊星『本当か?』
アキ「こんな事で嘘ついてどうするのよ。じゃあお弁当はまた今度って事で」
ピッ
アキ「…………」
アキ「……お姉さんの嘘つき」グスッ
アキ「…………」ゴシゴシ
アキ(とりあえずしばらくはここで雨宿りした方が良さそうね)
アキ(でも雨、本当に止む気配がないわ)
アキ(それに何だか遊星が来ないって分かった瞬間から、ここに居るのが辛くなって来たし……)
アキ「…………」
アキ「スイマセン、このビニール傘下さい」
アキ(少しくらい濡れてもいいや……もう帰りましょう)
ザアアアアァァ……
アキ「もう! 何なのよ、この天気は!!」
アキ(何だか風も強くなって来たし……やっぱりもう少しあのコンビニに居るべきだったわ)
アキ「もう絶対にあのお姉さんの事は信じないから……ってきゃあ!?」
バターン
アキ「な、何でこんな何もない所で……痛っ!?」
アキ(うぅ、膝擦りむいちゃった……って、あれ?)
アキ「お弁当……遊星にあげるはずだったったお弁当が入ってるバスケットは?
さっきまで手に持ってたのに?」キョロキョロ
アキ(あ、道路に転がってる! 早く拾わないと……)
<プップー
アキ(え?)
グシャ! バシャーン!
お弁当「」←車に轢かれてペッシャンコ
アキ「…………」←泥水かけられてびしょ濡れ
アキ「…………」
アキ「……アハハ」
アキ「……さすがにもう、どうしようもないわね、これは」
アキ(何よ、これ……少し前まではあんなにウキウキしてたのに)
アキ(今日一日、とても楽しく過ごせるはずだったのに……)ジワッ
アキ「私が……何をしたっていうのよ……?」ポロポロ
アキ「ぐすっ……ひくっ……」
アキ(もうやだ……何で私、こんな……)
アキ「ぐすっ……遊星ぇ……遊星ぇ……」
遊星「――呼んだか?」
アキ「……え?」
遊星「やっぱりもう家を出ていたんだな。こんな事で嘘をつくな」
アキ(何で遊星が……ここに?)
遊星「びしょ濡れじゃないか。傘は……転がってるこれか」
アキ(夢? 幻? ううん、現実に遊星は私の前に居る)
遊星「膝大丈夫か? 立てるか?」
アキ(遊星が来て……くれた)
アキ「うっ、ふぇぇん……えぐっ、ひくっ……」ポロポロ
遊星「……とりあえずポッポタイムのガレージまで来い。これ以上ここに居たら風邪を引く」
遊星「さあ、俺の手を掴め」
アキ「ぐすっ……うん」コクン
…………
遊星「よし、膝の手当てはこれで良いだろう」
アキ「……迷惑かけてごめんなさい」
遊星「気にするな……いや、こう言うとアキは逆に気にするんだったか」
アキ「今は遊星一人、なの?」
遊星「ああ。クロウは仕事、ブルーノはセキュリティに用があるらしい。
ジャックは……多分何時もの喫茶店だろ」
遊星「ほら、アキの好きな紅茶だ。温まるぞ」
アキ「……ありがとう」
アキ「ねえ、遊星……何で来てくれたの?」
遊星「え?」
アキ「私、まだ家に居るって嘘ついたのに、何であの場所に来てくれたの?」
遊星「……アキに電話をした時、受話器の向こうから店員らしき人の声が聞こえた気がしたんだ。
だからアキが何処かの店に居ると想像は出来た」
遊星「だが俺の記憶ではアキの家の近くにそれらしい店はない」
遊星「そしたらふと、時計台の近くにコンビニがあったのを思い出してな。それでもしかしたらと思って……」
アキ「近くを探してくれたって事?」
遊星「そういう事だ。しかし行ってみて本当に良かったよ」
アキ「…………」
そうです
遊星「……雨、凄いな」
アキ「……そうね」
遊星「そういえばあの時も急な雨だったな」
アキ「あの時って?」
遊星「前にアキの家に行った時さ。あの時は風呂にまで誘われて、正直戸惑った覚えがある」
アキ「そういえばそうね……もしかして私って雨女なのかしら?」
アキ「こんな大事な日にも……雨が降るんだもの」
遊星「アキ?」
アキ「遊星が私のお弁当食べたいって言ってくれた時、私とても嬉しかった」
アキ「だから今日のお弁当は、凄く頑張って作ったの……それで自分で言うのも何だけど、結構良いのが出来たのよ」
アキ「だけど今日は雨が降って外で……食べられなくなって……」
アキ「肝心の……ひくっ……お弁当も落として……轢かれて……駄目にして……」ジワッ
アキ「ごめんなさい……遊星……ひくっ……お弁当食べさせてあげられなくて……ごめんなさい……ひくっ……」ポロポロ
遊星「アキ……」
アキ「な、泣かれても遊星も、ひくっ、困るわよね……分かってる、ごめんなさい……すぐ、泣き止むから……」
アキ「うぅ……えぐっ、えぐっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
遊星「アキ、お前は何も悪くない。謝る必要なんてないんだぞ?」
アキ「だけど……私……何だか申し訳なくて……」
アキ「遊星に、ひくっ、迷惑、ひくっ、かけてばっかりだし……」
遊星「…………」
アキ「うぅ……ぐすっ……ひくっ……」
遊星「…………」
遊星「…………」ナデナデ
アキ「ぐすっ……ゆ、遊星?」
遊星「子供の頃、何だが……」
遊星「辛い時や悲しい時に泣いていたら、マーサがこんな風に頭を撫でてくれたんだ」
遊星「そうすると不思議なもので、何だか安心した気持ちになって……自然と涙も止まってきたんだ」
遊星「俺にマーサと同じ事が出来るかは分からないが……」
遊星「アキの悲しんでいる姿は、あまり見たくない。だから……」
アキ「遊星……」
遊星「…………」ナデナデ